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おそらのうえで。

おそらのうえで。

*空席*


いつもの時間のいつもの電車。

でもそこには君がいない。

*空席*

何度も時計を確かめるけど
間違いなく、いつもの時間。

電車はいつも君が乗ってくる駅を過ぎたのに
窓にうつるのは、君のいない座席。

振り向いてもそこに君はいない。


昨日、思わず座った君の隣。
うたた寝する君の隣で僕は
君が降りる駅についても
どうすることも出来なくて
目を覚ました君に
なんて言葉をかけたのかも
あやふやな記憶の彼方。

ただ確かなのは
逃げるように電車を降りる僕を
君は不思議そうに見つめてた。


もしかしたら
ただ乗り遅れただけかもしれない。

不審に思った君は
時間をずらしたのかもしれない。

休みなのかもしれない。

僕に会いたくないのかもしれない。


本を片手に考える。

いつもの時間のいつもの電車。

ただそこに君がいないだけなのに
それ以外はいつもと変わらないのに


ココロに小さな空席。


気がつくと電車は
君がいつも降りる駅。

僕はそこにはいない君の背中を追うように
電車を降りて、ホームのベンチに座る。


のどかな田園風景。
線路にそって河が流れる。
電線にはスズメがとまりぴいちく鳴いてた。
農道ではネコが大きなあくび。

秋の冷たい風もなんだか心地いい。

きっとこれが君がいつも見る景色。


遮断機の降りる音で
ふと我にかえった。


一体、僕はここで何してる。

まるでこれじゃストーカーじゃん。

別にいつもの電車で
君と約束してるわけじゃない。

君がいないことでこんなにも
考え込む必要なんかどこにもない。


僕は目の前に止まった電車に乗り込んだ。

すれ違い際に香ってくる
記憶に新しい甘い香り。

目の端にうつる
見覚えのある女の子。

振りかえるとそこには
君がいた。


僕と同じように振り返った君は
まんまるな目で僕を見る。

きっと僕も同じくらいまんまるな目をしてる。


君は少し目線をおろしてクスクス笑ったんだ。

『本、逆さですよ』

ふと手元を見ると
僕の手の中には上下逆さまの本。

慌てて持ち替える間にドアが閉まる。

動き出した窓の外にうつる君は
僕にちいさく手を振った。





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